しあわせのドレス





 その日、本拠地の倉庫番バーバラは悩んでいた。目の前には一着のウェディングドレス……もちろん彼女のではない。かといって『誰か』の物でもないのだが。
「バーバラさん、どうしたんですかぁ?」
 そこへ現れたのは本拠地で知らない者はいないと言われるほどのフリック・フリークのニナ。彼女もまた壁につるされたドレスへ目を向けた。
「あれ、これってこの間の結婚式のですよね?」
 この城には城主たる天魁星の元に集う宿星達の他にも戦火を逃れてやって来た一般人が数多くいる。その中で出会い、生涯を共にと誓う男女も少なくはなかったのだが……いかんせん時代は戦時下。女性の憧れであるウェディングドレスもそう簡単に手に入るものではなく、かくして数種のサイズのドレスが用意され、大事に着回しされているのであった。
 だがいつの間にか当の女性たちの中ではそれを「幸せのドレス」と呼ぶようになり、逆にそれを着ることを夢としている者も少なくない。
 ところが目の前にあるそれはいささか違う。少々大きいのである。サイズが。
 先日また一組の若い夫婦が誕生したのだが、その花嫁は他の女性たちに比べ大きかった。急遽新しくドレスが作られ無事に式は行われたが、ドレスはそのまま倉庫に残ってしまったのである。
 「売るのも難だしねぇ……だからと言ってスソを詰めちゃうのも……第一もう使わない、って言い切れないしね」
 そして、倉庫番はその始末に困っているのであった。
 この城の倉庫は広くはない。使わないものを残して置くのはムダだが、簡単に処分していいようなシロモノでもない。
 「そういえば結構大きい方でしたね……でも、ここでこれが着れそうな女性はそんなにいませんよ」
「やっぱり処分しちゃおうか」
 そう言ってドレスを奥にしまい込もうとしたバーバラに、ニナがあわてて声をかけた。
「あっ、処分するなら、その前にちょっとだけ貸してもらえますか!?」


 「―――はぁ?」
 親友兼恋人の青騎士団長とともにこの同盟軍に身を投じてから数週間。城の雰囲気にも慣れてきてようやく迷うこともなくなり、城内の散策から部屋に帰ってきた赤騎士団長は、着替えの入っているクロゼットを開けたところ、目に飛び込んできたものに驚き、……たいそう変な声をあげた。
 見慣れぬドレスが一着。しかもウェディングドレスである。とりあえず自分のではない。かと言って同室の相方のかといえば……そうではないだろう。彼にはそのような趣味は無かったはずである。 そういえば自分たちがここに来てから程なくあった結婚式の時に花嫁が着ていたドレスがたしかこのようなものであったような。
 混乱した頭は、正しい答えを導き出すのに数分を要した。
 この部屋にある理由は分からないが、とりあえず出所はハッキリした。
「倉庫に持って行けばいいのだろうか……」
 だが大の男が兵舎内を『コレ』を持って通過するのはいささか気恥ずかしいものがある。どうしようか考えあぐねていると、几帳面なノックの後、相方が部屋に帰ってきた。

 「カミュー、なんだそれは」
「ああ、マイクロトフおかえり。私が帰ってきたら既にクロゼットに入っていたんだ。私にもよくわからないが……多分先日の結婚式のドレスじゃないかな」
「あれ? それはもうじき処分されるはずだぞ……今し方廊下でニナ殿に聞いたのだが」
「さすがにこれが着られる女性はそうそういないだろうな。だがもったいないものだな、せっかくの『幸せのドレス』を」
 訳のわかっていないような顔を見せるマイクロトフに、カミューは続ける。
「レディ方にいつの間にか広まった話だよ。それを着た花嫁は花婿と共に永遠に幸せでいられる、という感じのね」
 マイクロトフはふうんとつぶやいたままドレスを持ったカミューを凝視していた。が、しばらくするとおずおずと切り出した。

 「なぁカミュー、そのー、……そのドレスを……着てみてくれないかな?」
 瞬間、カミューの顔が真っ赤に染まる。
「な、何を言ってるんだ!?」
「いや、それは処分されてしまうのだろう? それならその前に少しだけ……」
「私を何だと思っている!」
「わかってる、わかってる……でも、きっとカミューにはそれが似合うと思って……」
 全く、この男は何を言い出すのか。しかも何の根拠があって「似合う」などと。カミューはもはや呆れるしかなかった。
「これはレディの服だぞ。私が着られる訳がないだろうが」
「そうか? 結構大丈夫だと思うが……」
 そう言ってドレスをカミューにあててみる。しばらくすると嬉しそうな声が飛んできた。
「ほら、大丈夫そうだぞ」
 それは喜ぶべきポイントなのだろうか、悲しむべきことなのだろうか。カミューはもう何が何だかわからなくなっていた。
 そんなカミューの目の前には少し寂しそうに彼を見つめる男の顔―――。
「わかった。だが、しばらくむこうを向いてろ」
 ―――半分ヤケでもあった。
 いくら何でもそれに着替える過程を見せるのは恥ずかしい。だが、結局カミューはこの男の頼みを断ることはできないのだった。

 いくばくかの衣擦れの音の後に、ようやくマイクロトフは振り向く許可を与えられた。
「やっぱり綺麗だ……」
「何を言っているんだこの馬鹿」
 事実、その姿はとても綺麗だったのだ。男性ながら、それはやや細みの体によく合っており、純白のドレスに亜麻色の髪が映えて美しい。恥ずかしさからか頬が桜色に染まり、マイクロトフでなくても思わず見とれてしまうものがあった。
「これで満足か?」
 だがマイクロトフは忘れ物だと言うと、さらにカミューの頭にベールまでのせ、そしてそのまま彼を抱き上げてしまった。さらさらとレースのふれあう音が増える。
「こら! 調子に乗るんじゃ……」
 言いかけた口はマイクロトフの『誓いのキス』によってふさがれる。
 「……このドレスは『幸せのドレス』なんだよな……」
 しばらくのち、ようやく唇を離したマイクロトフがつぶやく。

「俺たちも、ずっと幸せでいられるかな?」






知人から頂いたFAXを見て、約1時間で半殴り書き状態で書いたシロモノ。
殴り書きだけあって自分が書いたような気がしませんが、
今こっぱずかしいので自分で書いたもののようです。
おまけに自分の本にも使いまわし、お疲れさんって感じです。

一つ言いたいのは、
ウェディングドレスは一人じゃ着られねーよ!!



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