知らぬは彼の人ばかりなり





 その日、赤騎士団長カミューは友人の青騎士団長の姿を求めてロックアックス城内を歩き回っていた。本人の部屋にも、青騎士団の執務室にも姿がないのである。そして次に訪れたのは青騎士団の詰所。扉の前まで来てみると、なにやら中がやたら騒がしい。ここまで騒がしいのはおそらく、
「……トトカルチョか……」
 青騎士団員は普段は真面目な者ばかりだが、何でも賭けの対象にする性癖がある。それは「今年のワインの作柄は」から「今冬の雪かき出動回数」までさまざまである。騎士団内の数少ない娯楽のため、あの団長でさえも規制することができないのであった。
 今度は何が対象になっているのかと思いながらドアを開けたところ、1人の青騎士と出くわした。彼は顔を青くしながら叫んだ。
「あ……カ、カミュー様!!!?」
 途端に衝立の向こうでもなにやら騒がしくなる。
「マイクロトフは……いないみたいだけど、どこに行ったか知っているかい?」
「だ、団長はおそらく修練場かと……」
 あわて過ぎである。怪しんでくれと言っているようなものだ。さすがのカミューも訝しんだ。
「何をしているんだ」
「モール!!」
 奥に入ろうとすると、向こうからこの騎士の名を呼ぶ声が上がった。
「あ、あの、マイクロトフ様は、えーと、お部屋にも執務室にも、いらっしゃらなかったんでしょうか」
 どう見てもただの時間稼ぎである。ますます怪しい。道をふさぐ彼を押しのけるとカミューは奥へ入っていった。

 なんとも異様な図であった。雰囲気もそうだがなによりその構成である。青騎士だけでなく赤騎士も多数いる。そればかりか白騎士まで数名混じっているのだ。皆一様に引きつった笑いを見せている。
「何をしていたんだ?」
 彼からいつもたたえているはずの微笑みが消えている。笑いはそのまま固まってしまった。
「べ、別にやましいことは……いや、法に触れるようなことはしておりません!」
「だが事実私に言えないようなことなのだろう? これでは団長に言って何か対処してもらわねばな。」
 皆騎士服のように真っ青になってしまった。もちろん赤・白騎士もである。
「マイクロトフ様にだけは、お願いしますから言わないで下さい! お願いします!」
 土下座までしそうな感じになってしまった。
「なら、何をしていたのか言ってみるんだな」
「……………………トトカルチョを…………」
 それっきり青騎士はうつむいて黙り込んでしまった。それからは赤騎士が続ける。
「マイクロトフ様を対象にしたんです……」
 どうりでマイクロトフだけには言えない訳である。
「なら別に私にも伏せる必要はあるまい」
「いや、あのー、そのー………………」
 赤騎士も沈黙してしまった。観念したかのように再び青騎士が口を開いた。
「今回のお題は、
団長はいつカミュー様にコクるか
だったんです……」

 カミューは思わず笑い出してしまった。その笑いに悪意が感じられないのを悟ったのか、青騎士がおずおずと言ってきた。
「あの……お怒りになられないのですか?」
「なんでまたそんなことを賭けようと?」
「……最近団長のカミュー様を見る目付きが何か変わってきたなぁ、と思ったもので……」
 そこからは堰を切ったかのように、「あれは団長本人は気づいていないんだろう」とか「見ているだけでもおもしろい」などと周りの団員も口々にしゃべりだす。
「もうこれで3回目の仕切り直しなのにまだそれらしいものがみられないんですよねぇ……」
「そんなに長いこと続けているのか?」
「団長があれですから……誰のも当たらないので半年ごとにやり直しているんです」
 青騎士一同首をすくめて答える。これで3回目ということは、もう1年半前からこのようなことが行われているわけだ。
「でも参加者は減るばかりか増える一方で、今ではこのように白騎士までもが……」
 それを聞くと、カミューはにんまりと笑って言った。
「それじゃあ私も一口参加させてもらおうかな」
「ええっっっ!!??」
 その場にいる騎士全員が固まってしまった。
「赤騎士を偵察員にするよりは早いんじゃないかな」
 すると、素早く青騎士が机の引き出しから1枚の紙を出してきた。
「それではこの紙にお願い致します。いつの月のどの週かを明記して下さい」
 安心したのか、すっかりいつもの青騎士の顔に戻ってしまっている。
「この空欄は何だ?」
「あ、そこは……成就か玉砕かを記すところでして」
「そんなところまで対象にしているのか。どうやって確認するつもりだったんだ?」
 皆苦笑いをしている。どうやらあまり考えていなかったようである。青騎士らしいと言えば青騎士らしいが。
「これは書かねばならないのか?」
「いや、配当が2倍になるボーナスチャンスです」
 今度はカミューが苦笑した。ペンと紙を机において扉へと向かう。
「それは遠慮しておくよ。わかってしまったら……面白くないだろう?」
 微笑んでそう言うとカミューは部屋を出て行った。部屋にはため息と歓声が残った。

 詰所の歓声を背に、カミューは習練所へ向かっていた。
「青騎士にも気づかれているとはな……」
 自分が気づいていない訳がない。そしてそれは青騎士よりずっと前から。
「どうやらあいつは本格的に気づいていないみたいだな」
 おそらくは、自身が何を、誰を想っているのかさえも。
「ま、それはそれで面白いんだが」
 歓声はだんだん遠くなっていった。






多分かなり前、チャットで「いつ告白するかを賭けにする騎士団員」について
話していたのが元かと。
騎士の賭け好きは私が冗談で賭け事をもちかけることからだったんですが。



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